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お師匠様との邂逅・人の巻 [私事]



さて、最終回。
写真は、その日家を出る前に、自宅の庭で撮ったボケの花。
私は、お師匠様にお断りして先に会場一階へ降り、展示室で再度永瀬清子展を見ているところ。
いろいろお話を聴いた後だと親しみも増して、一つ一つににわかに愛着が湧く。
じっと見つめながらカニ歩きで横へずれていたら、後から来られた小柄な訪問着の奥様が展示に見入り、更に近寄ったと思ったらおでこをゴン!とぶつける。
「あ、イタタ…」
「…大丈夫ですか?」
努めて大げさにならないようにそうっと尋ねてみる。
「まぁ~、見えんから近付いたらぶつかってしもうたわ…ホホホ」
照れ臭そうに笑う奥様。展示物は永瀬清子の生家の手描きの古い地図。
「ガラス、かなり綺麗に拭いてありますものねぇ…」
ふふふ、と思わず笑い合う。
「ま、化粧の汚れがついてしもうたわぁ。ええじゃろうかしら?」
「…(笑)」
そういうやりとりも久々のような気がして、変にならずに言えてよかったな、などと思う。

しばらく見ていたら
「うぅー」
という唸り声とともにお師匠様が隣に立たれていて
「あ、どうも…お疲れ様です」
「うむ」
いくつか展示を指しながら説明して下さる。途中で、手押し車の年配の奥様が挨拶に来られる。
少しお言葉が不自由な方のようだけれど、お師匠様はぎこちなくも親切に応対。この会の馴染みのお客様なのかもしれない。
内容は、永瀬清子が詩人を目指すきっかけになった上田敏詩集の初版の現行価格がどうとか。少し話して、その方は離れて行かれる。
そのまま続けてお師匠様は私を案内して下さるのかと思いきや、大概見飽きたものなのか、急に順路を斜めに突っ切ったり、また別の先生に声を掛けられて立ち止まったり。フェイントというかイレギュラーというか、とても着いて行けるものではない。
まあいいか、と、途中から自分のペースで適当に見ながらウロウロ。
詩集の装丁や書体のロマンにはワクワクしてしまう。
谷川俊太郎氏が永瀬氏に送ったとされる色紙には
「シットのあまり つるっぱげ」
と、絵まで描き添えてあって、女にこういうことをスラッと仰るのもいいもんだな、などと憧れつつ眺める。

少しして気付いたらお師匠様は既に出口のところに立っておられて
「おおい、まだ観る?」
と私に仰る(ありゃりゃ…)。
「いえ、スミマセン。もう済みました」
慌てて言って小走りで近付く。
…まぁ、貧とは言え、会の前に自腹で一通り見とくべきだった気もする。反省。

お師匠様の半歩後ろを歩き、会場の出口のところで、諸々の気疲れの緊張の糸が切れて思わず
「はぁ~」
とため息をつくと(糸が切れるタイミングは今じゃないっつの…)、右手の奥にスタッフの女性の方がお二人立っておられて、お師匠様が
「ああ~、どうもぉ、お世話になりましたぁ」
と挨拶中。慌てて体勢を立て直し
「失礼致します」
と頭を下げながら会場を後に。

出てすぐお師匠様が仰るには
「貴女、おウチはどのあたりなの?」
「ええと…今の区分けで言うとX区なんですけど…」
「うーん?どのあたりになるのかなぁ」
「どう申したらいいか、XX(町名)がありますよね?」
「XX…。ああ。□□病院なんかがあるあたり?」
「そうですそうです、あれよりもう少し南に下ります。パイパスより向こうのXX(町名)寄りです」
「ほぉ…。時に貴女は普段散歩なんかはするのかな?」
「いえ、あんまりしないです…」
「そりゃあ貴女、駄目じゃないの」
「そうなんですけど…先生はなさるんですか?」(げっ、つい余計な減らず口を…)
「そりゃあ、ワタシはまぁ、歩くのも…自転車なんかもいいんだろうけども、あれは後ろから車が来たりすると危ないでしょう?貴女は家の周りをぐるっとこう歩くくらい、いいじゃないの」
「そうなんですけどね…。ウチは母が神経質で、着たなりでフラッと、というのを嫌うもんですから」
「ああ、貴女こっちの道を行きましょう(と川沿いの細い道を指す)。まあ、そういうのも少しストレスになっちゃってるのかも知れないねぇ」
「うわ、すごいいい香りですね…沈丁花かなぁ…」
いつも母のせいにする癖に(いや事実だけど)、言うと自己嫌悪な、お家事情。
ちょっと速足すぎて追い越しそうになり、お師匠様が先へおいでになるのを待つ。

「そう言えば、貴女の卒業論文のテーマはなんでしたっけね?」
「えっ、卒論ですか?『幸田文のオノマトペ』です…」
「あれの続きをやってみる気はないの?だってあれは未完のままのものだから」
「うひゃあー、大分前お会いした時も同じこと仰った気が…。いやぁ、あれはもう勘弁して下さい…」
パソコンもメールもケータイも文系の研究には主流でない時代、卒論指導は先生の官舎に直接お電話をして予約をし、ワープロ打ちの原稿を研究室へ持ち込んで、途中途中で問題点を指摘して頂くことになる。
これが21歳の私にはどうにも気ぶっせいで、小マメに見て頂くのを躊躇した結果、ほとんど勝手に183枚(400字詰めで約550枚)書いて、挙句結論らしい結論に辿りつけず。
正確には、自分で勝手に「結論はこうなるべきだ」みたいに知らず知らず思い込んで、用例をカードに書き出して洗っていたんだけど、有意な方向性が出なかったというか。研究としてはハナから間違っている態度。
最終的には口頭試問でお師匠様に
「思い余って力及ばず、というところでしてぇ」
と汗顔の弁明をさせてしまい、他の試問担当の先生に苦笑され、お情けで通して頂いたとしか思えないシロモノ。
てっきりからかわれていると思ったら
「だって、あれはまだ他に誰もやってないもの。勿体ないから。もう全集も出ているし、物故者でもあるから、新たにテキストが出るような作家でもないしねぇ」
卒論に取り掛かった時、岩波版の全集の刊行はまだ途中で、配本を待ってはバイト代で細々と買い揃えていたものだ。
「全集は持ってますし、今も好きです。いや、研究は向いてないというか…。好きだから突き詰めたくないような気もしたりして…」
しどろもどろで冷汗かきつつ、駐車場に到着。あまりに資料が重そうなので
「あの、お荷物大丈夫ですか?お持ちしましょうか?」
「あぁん?これはいいの、自分で持ちますよ」
失礼だったかなと恐縮していると、お師匠様は自分の持って来た荷物を助手席にドカドカ乗せる。どこに乗ればいいのかなと外でじっとしていると
「ああ、貴女は後部座席に乗って下さい」
とのことで、恐る恐る乗り込む。
学生時代も何度かお車には乗せて頂いたが、その時と同じ車かどうかはよく判らない。10年以上前だし、違うと思うけど。
とにかくあれやこれやつっこんである感じの車の雰囲気は変わらない。

お師匠様のお車に乗ってすぐ、
「あの、これを」
と後ろから手土産の紙袋を差し出すと
「ああ、そうだそうだ。これを受け取らなきゃ、貴女の今日の御用が済まないんだった」
「いやそんな、ホントに、大したものじゃありませんから…」
受け渡しが済むと、お師匠様が振り返って人差し指を立て
「ひとぉつ訊きたいことがある」
人の世の生き血をすすり…の怖さがある。びくびくしつつ
「は、ハイ」
「貴女は、どして一人称を『僕』にするの?何か理由があるの?」
いきなり現代詩の書き様についてのご指摘らしい。ヒヤヒヤしつつ
「ええと…『私』はなんとなく座りが悪い感じがして『僕』の方が語感が書きやすいというか…。理由はそれだけです」
「まあ、いろいろ試してみればいいと思うんだけれども。詩は特に断りがなければ自分が主体になるわけ。そうした時に、『僕』がポーンと出て来ちゃうと、そのぅ、書き手との間に距離が生まれて、客観的な、第三者的な感じになってしまうのね」
「ハイ…。『私』にも、慣れて行くようにしたいと思います」
「それと、詩の会、同人なんかで集まってるところがあるわけだけれども、そういうところに所属してみたいというような想いはないの?もうどこか入っている?」
「いえ入っていません…。それは、どうしたらそうなるのかよく分からなくて。どこかに入ってみたいような気持ちは、…ありました」
ホントは、お許しが出れば、お師匠様主宰の雑誌に寄稿できたら、と当初は考えていたのだけど、つい先頃廃刊となったとの事なので、黙っておく。
「貴女は女性の多い会の方がいいような気がするんだけれど…、○○さんのとことか、○○さんのとことか。どういうひとの詩が好きなの?」
「その…自分は詩を書きますけど、詩人の作品に詳しい方ではないと思います…。詩集をたくさん持っているとかではないんですが、吉野弘さんなどの詩は好きで…」
段々声が小さくなってしまい、訊き返される。
「誰って?」
「吉野弘さんです…」
我ながら、吉野さんにも頗る失礼な、思慮浅そうな答だなと思いながら、俯いて答える。
「あそう。ただねぇ、貴女の負担になってもいけないから…。気が向いたらまたメールででも報せてくれれば、紹介してあげます」
この上ない話だと解っているが、同時に微かな見捨てられ感もあった。
正直、女性の多いところでの人間関係はあんまりうまくいった試しがない。病気の事もある。
この状態だと、まず紹介主のお師匠様の顔に泥を塗るのは間違いないし、ストレスが昂じて不安定になり、和やかに集っておられる方々に迷惑をかけるようなことになったら目も当てられない。
完全にネガティブ思考にハマりつつ、
「ありがとうございます。それが先生の御意見なら…。ただその、負担になるかどうかはやってみないと判らないところもあって、今迄も何かやってはストレスが増して薬も増えて、みたいなことを繰り返して来たので、少し不安もありまして…。ドクターに、相談を…」
と焦って泥沼な言い訳をしていたところで岡山駅のロータリー着。
関西の旅行キャンペーンでテントが並び、時ならぬ混雑。
「む、なんだ、これは」
お師匠様はぶつぶつ言いつつ車を取りまわしている。車が止まったので
「あの…また、先生ともゆっくりお話がしたく、思います…」と言うと
「だ~から貴女、ワタシの住所知ってるでしょ?そこへ来てくれたらX階におりますから」
「は、はぁ、あの、車でもお伺い出来ますか?」
「それは事前に言ってくれればぁ、何番が空いているか知らせますから…ああ、後ろから車が来ますよ」
「は、スミマセン。それでは、どうも今日はお招きありがとうございました」
「………ね」
「はっ、ハイ?」
「元気でね!」
「はい、ありがとうございます。お気を付けて!」
ドアを閉め、去っていくお車を見送る。

なんとなくぼんやり不安な気持ちになりつつ、他にも行きたいところがあったのだけど、くたくたで気力がなくなる。
駅の三省堂で「ユリイカ」巻頭の雨ニモ負ケズ論争を途中まで読んで頭が痛くなり、永瀬清子の本は見つけられず、迷いに迷って『日曜日の万年筆』(池波正太郎)と『海』(小川洋子)の文庫本を買う。
父から電話があり、グランヴィアの脇で車待ち。今日は午後から雨の予報だったが、どうにかもったようだ。助かった…。

会そのものも、お師匠様との再会も総じて見れば楽しい一日。
ただ、一対一はまだしも対人が得意でないところが万事気遅れのもと。
ともあれお師匠様は、あまりお変わりなく、むしろ病み上がりでいらした退官の頃よりお元気そうでホッと安心。嬉しいことだ。

駅からの帰りに父とジャスコに寄り、ミル貝の握り2カンとオロナミンCというワケの分からない組合せで小腹を観たし、20時半頃帰宅。


ハツラツぅ?…て感じではなかったような。
三歩進んで二歩下がる一日だったかな…。
一歩は進んだことにしとこう。
これにておしまい。長文失礼致しました。
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